近年、世界的に進みつつある「EV(電気自動車)」の普及。その背景には、気候変動を引き起こす要因となる温室効果ガスを抑え、ゼロエミッションを実現するという各国のねらいがあります。今回のコラムでは、ゼロエミッションを達成するため、日本にEVを浸透させるにあたって課題となることや、それに対する方策をご紹介します。
CO2のゼロエミッションを目指して
環境問題や気候変動について語られる際、合わせて聞くことが多い「ゼロエミッション」というワード。ここでは「二酸化炭素のゼロエミッション」をゼロエミッションとして表現します。これは、製品を生産して使用し、廃棄するまでの流れの中で二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという考え方です。まずは今地球で起きている現状を踏まえ、これから目指す未来像を描いていきましょう。
深刻化する気候変動
地球の気候変動が深刻化していると叫ばれるようになって久しいですが、昨今は特に地球環境に関する問題が予断を許さない状況にあります。たとえば、温室効果ガスの排出は地球の温暖化を招き、海氷の融解や生態系のバランス崩壊を引き起こしています。そうした気候の変化は今後さらに深刻化することも十分考えられる上に、思わぬ影響にまで発展してしまうこともあるでしょう。
SDGsの開発目標にも密接に関係する
2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも、気候変動に関連する内容が開発目標として盛り込まれています。特に関連するのは、目標13の「気候変動に具体的な対策を」という項目です。気候変動を引き起こしている要因は複数ありますが、それぞれの要因に適切な対策を行っていくことでしか、気候変動を食い止めることはできないでしょう。SDGsに関する取り組みとして紹介されている事例も参考にしつつ、具体的にできることを考えていくことで状況を改善していくしかないのです。
そして社会はゼロエミッションへ
気候変動に対する対策を実施し、最終的に社会全体として目指すのは「ゼロエミッション」というひとつの形になります。こうした潮流は、実質的に二酸化炭素の排出量をゼロにすることで、気候の変動に与える影響を最小限にするという考えに基づいています。ただ、現状では国や地域によって温室効果ガスの排出量や環境に対する意識の違いが生じてしまっているため、今後皆が歩み寄ることでギャップを埋めていかなければなりません。
そして自動車業界として見ると、主に今あるガソリン車をEVに切り換えることでゼロエミッションを達成しようとしているメーカーが多いといえます。近年ではEVを専門的に生産するメーカーも散見されるようになりました。
日本メーカーもEVの潮流へ
これまで、トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車メーカーは、EV化について慎重な姿勢をとっていましたが、昨今の世界的なEV化の波も後押しして、最近は各社EV普及に向けて積極的な姿勢を見せています。
ただ、もちろんEV化は良い影響だけをもたらすわけではありません。次のセクションでは、EVを普及させるにあたって解決しておかなければならない課題についてお話していきます。
EV普及の現実的課題
たしかにEVが普及すれば、自動車が走行時に排出する温室効果ガスを低減させることができるでしょう。しかし現実的には数々の課題を解決しなければ、ゼロエミッションの達成から遠ざかってしまう可能性すらあることには要注意です。まずは課題を把握するところから始めてみましょう。
充電設備の不足
EVは車体にリチウムイオンバッテリーを搭載しており、走行によって電気を利用すると充電が必要になります。充電には専用の設備が必要になりますが、2022年3月時点で日本で利用可能な充電スポットは約2万1千ヶ所。ガソリンスタンド数の6割にも匹敵すると言われています。
ただし、休日を中心に一部の充電スポットで「充電待ち」が発生しているのも事実です。従来の給油と比較すると、充電時間もかかってしまうため、今後さらにEVが普及することとなると、設備の不足や充電待ち状態の深刻化が懸念されます。
電力の不足
さまざまな要因によって電力の供給が不安定になっている今、さらに電力需要が拡大すると、電力がひっ迫してしまう可能性があります。今あるガソリン車がすぐにEVに置き換わるとは考えにくいですが、EVの台数が増加すればそれだけ必要な電力量が増えるのは明らかです。
車両価格の上昇
一般的に、リチウムイオンバッテリーを搭載するEVは、ガソリン車と比較して車両価格が高くなってしまう傾向にあります。車種ごとにグレードの幅こそありますが、EVの価格におけるボリュームゾーンは500〜800万円あたりです。新車販売価格として見るとまだ高いという印象を受けてしまう人は少なくないでしょう。日本ではCEV補助金制度も用意されているものの、広くEVを普及させるためにはより車両価格の低いモデルを市場に投入しなければならないと考えられます。
走行時「以外」の環境負荷
EVの特長は走行中に温室効果ガスを排出しないこととされていますが、製造や流通、発電や処分など「それ以外」の部分で排出する温室効果ガスにも気を配る必要があります。たとえば、EVの核ともいえるバッテリー部分の製造や廃棄をする際には、少なからず温室効果ガスの排出や環境への負荷が生じることが知られています。ゼロエミッションを目指すのであれば、より俯瞰的な視点で環境への影響を考慮する必要があるでしょう。
豪雪地帯における懸念も
北海道や東北、北陸や山陰など積雪が多くなる地域では、雪が原因となって大規模な渋滞が発生することがあります。低温かつ電力を得られない状況で長時間停車をしていると、運転者や同乗者に健康被害が出てしまうことも懸念されるでしょう。そうした状況下で浮かんでくるのは、EVの電池切れ問題です。ガソリン車は燃料が無くなったとしてもガソリンを継ぎ足すことでエンジンを再始動できますが、容易に充電ができないEVの場合は充電が切れれば復旧ができなくなってしまう可能性があります。
ただ、ガソリン車の場合も排気口が雪でふさがることによる一酸化炭素中毒の危険性が懸念されるため、どちらが豪雪地帯に適しているか結論づけるには早計でしょう。
これからEVを普及させるには
さて、今後EVを普及させるには具体的にはどのような対策をする必要があるのでしょうか。主に先ほど挙げた課題に呼応する形で、現状考えられる対策を挙げていきます。
まずは充電設備の拡充を
充電スポットが不足するという問題に対しては、単純明快に設備を拡充するという対策が考えられます。充電待ちを解消するためには、ただ単に充電スポットを増やすだけでなく、短時間で充電が可能な急速充電器を設置することも有効でしょう。
再生可能エネルギーの活用は必須
環境への配慮や電力の供給という観点では、太陽光エネルギーや風力エネルギーなど再生可能エネルギーを用いた発電を積極的に行うことが必要になってきます。走行時に排出する温室効果ガスだけではなく、発電時に発生する温室効果ガスまでもなくすことができれば、ゼロエミッションの実現に一歩近づくでしょう。
実際、EVのトップランナーともいえる自動車メーカーのテスラは、ヨーロッパを中心に再生可能エネルギーで発電した電気を供給するステーションを設置しています。こうした動きが広がれば、EVにかかわる温室効果ガスの総排出量を低減することができると見込まれます。
ゼロエミッションを見据えた資源活用サイクルの形成
環境に配慮しながら、気軽にEVでのカーライフを送るためには、自動車部品やそこに含まれる資源を有効活用することがカギとなります。その選択肢のひとつとして挙がるのは、自動車部品のリサイクルというものです。何らかの理由で乗られなくなった自動車の部品を、使える状態で他の自動車に組み込めば、資源を新たに消費することはありません。エコアールでも、自動車部品の積極的なリサイクルを通して、資源の有効活用に努めています。
EVは今後を担うカギに
今後、EV市場は今以上に盛り上がりを見せることが予想されます。しかし、それに伴って社会やユーザー自身が変化する必要があるのもまた事実です。自動車業界のみならず世界各国が足並みを揃え、ゼロエミッションの達成に向けてEVのあり方を考えていかなければならないでしょう。このコラムの他にも、自動車と地球環境にかかわる記事を掲載しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
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