製造から年月が経過した車は「旧車」と呼ばれ、中古車市場ではその希少価値が評価されることもあります。しかしその反面、旧車の維持費は年々増加する一方です。特に旧車ユーザーの負担になっているのが、自動車にかかる税金。今回のコラムでは、旧車の維持にかかる税金や環境への影響に関するトピックをご紹介します。
旧車にかかる税金と政府のねらい
「旧車」の定義はあいまいで、製造されてからどれくらいの年月が経過したものを旧車として見なすかは、さまざまな解釈があります。ただ、一般的に旧車と呼ばれるもののほとんどは、初回登録から「13年」以上が経過した車体です。この章では「13年」経過したことがどのような意味を持つのか、解説していきます。
旧車ユーザーを苦しめる「13年」の壁
新車登録時から13年が経過したクルマには、自動車税の「重課」が行われます。重課とは税金が上乗せになることです。たとえば排気量1,000ccを超えて1,500cc以下のコンパクトカーの自動車税は、12年目までは34,500円のところ、13年経過後に39,600円になります。この差額5,100円が重課された金額です。
排気量によって自動車税の金額は異なりますが、13年経過後の重課分は元の自動車税の約15パーセントに設定されています。なお、軽油を燃料とするディーゼル車については初回登録後11年を経過した時点で、ガソリン車同様の約15パーセントの自動車税が重課されるため、オーナーの方は注意が必要です。
自動車重量税も13年・18年経過のタイミングで重課
自動車税に加え、車重に合わせてクルマのオーナーに課せられるのが、「自動車重量税」です。この自動車重量税については、初回登録13年経過時点と18年経過時点の二段階で重課されるため、年数が経過し、なおかつ重量が大きい車種は負担が増えてしまいます。
初回登録後12年目まで車重0.5トンあたり4,100円だった税額は、13年経過時点では0.5トンあたり5,700円、18年経過時点で0.5トンあたり6,300円になります。
つまり、古い車であればあるほど、そして重い車であればあるほどオーナーの負担は大きくなってしまうのです。
なお、自動車重量税の正確な金額については、国土交通省の「次回自動車重量税照会サービス」(利用時間:9時〜21時)で参照ができます。
国土交通省の「次回自動車重量税照会サービス」
https://www.nextmvtt.mlit.go.jp/nextmvtt-web/
政府のねらいとは
政府は旧車と呼ばれる低年式車の税金の重課に加え、「エコカー減税」という政策を打ち出しています。これは一定の燃費基準を満たすクルマについて、自動車重量税の減免を行う措置のことです。
こうして古いクルマには税金を重課し、エコカーに対して減税を行う背景には、環境への負荷が少ないエコカーへの買い替えを促進したいという政府のねらいがあります。裏を返せば、新車のエコカー以外を乗り続けたいと考えている消費者にとっては、厳しい状況が続くことになるでしょう。
「買い替えること」は本当に環境のためなのか
先ほど政府はエコカーへの買い換えを推進することで、環境に与える負荷の軽減を目指していると解説しましたが、「最新のクルマに買い替えれば環境にやさしい」というのは本当のことなのでしょうか。燃費や排出ガスの観点から紐解いてみましょう。
旧車と新型車の燃費比較
燃費は車体形状や使う燃料によって大きく差異が生じるため、全く同じ条件で比較することはできません。ここではそれを前提とした上で、旧車とエコカーの燃費比較を行います。
カレント自動車株式会社が2022年1月に発表した調査結果(※1)によると、実際に所有している、もしくは過去に所有していた2010年式以前のクルマの実燃費については、「7〜9km/L」であったと回答したユーザーが最も多かったそうです。
一方、株式会社イードが2022年5月に発表した調査結果(※2)では、実燃費の平均が最も高かった車種であるトヨタ「ヤリス(ハイブリッド)」における平均燃費は「28.2km/L」と示されています。なお、ヤリスはエコカー減税の対象です。
これらの情報を元に、旧車とエコカーの燃費を比較すると、単純計算で最大4倍も燃料消費量が異なることとなります。つまり同じ距離を走行する場合でも、エコカーは旧車の4分の1の燃料消費で走行ができ、その分温室効果ガスの排出量も抑えることができます。近年急速に普及が進む電気自動車(EV車)に至っては、走行時の温室効果ガスの排出はゼロです。
※1 旧車王が旧車に興味があるユーザーを対象に大調査!旧車のガソリンはレギュラーが多い?それともハイオク?
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000035350.html
※2 『e燃費アワード2021-2022』を発表 実燃費ランキング、総合部門1位は2年連続でトヨタ『ヤリス(ハイブリッド)』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000004642.html
製造時に排出される温室効果ガスも無視できない
ここまでの内容を元に考えると、ハイブリッドカーやEV車への買い替えは地球環境にとって良いことだと思われるかもしれません。しかし、ここでひとつ考慮しなければならないことがあります。それは新車を製造する際に排出される温室効果ガスについて。
新車を製造する過程では多くの温室効果ガスが排出されることをご存じでしょうか。特にEV車を製造する工程においては、ガソリン車の2倍以上の温室効果ガスが排出されます。
燃費が良い最新のクルマだからといって、地球環境に良いとは一概には言えないのです。
自動車メーカーの役割と新たな選択肢
最後に、このような状況における自動車メーカーの役割と「リサイクル」という選択について考えてみましょう。果たして旧車から新型車への乗り換えを推進するのが本当に最善なのか、別の選択肢を選ぶこともできるのではないか、私たちは問い続けなければなりません。
新車をつくるだけがメーカーの仕事ではない
現状を見ていると、自動車メーカーは新車を製造することだけに力を入れているように見えるかもしれませんが、それだけがメーカーの存在意義ではありません。現に、ヨーロッパでは旧車の減税措置が行われている影響もあり、各メーカーは数十年前に発売された旧車のパーツの製造も積極的に行っています。
日本でもようやくトヨタ自動車をはじめとして復刻パーツの製造を行う体制が構築されつつありますが、まだ広く普及しているとはいえないでしょう。こうした観点で見ると、旧車に乗り続けられるような環境を整え、「つかう責任」を全うできるような状態にするのも自動車メーカーの役割だといえます。
ただ、こうした体制を整えるのは自動車メーカーだけでは限界があります。税制の改革やユーザーに対する理解の促進など、乗り越えなければならない課題は山積しているでしょう。
リサイクルという選択肢も
そんな中、現在注目されているのが自動車の「リサイクル」。不要になった車両からまだ使用できるパーツを取り出し、使える状態に加工して再利用するものです。この方法であれば、新車製造時と比較して温室効果ガスの排出量を低減できる上に、既に生産が終了したパーツを必要なユーザーに供給できます。エコアールではこのようなリサイクルの取り組みを事業として積極的に推進しており、これからの時代においてさらなる需要を見込んでいます。
日本の自動車業界は転換期を迎えている
急速に進むEV化や、環境への意識向上など、自動車を取り巻く状況は大きく変化し続けています。SDGsの目標12である「つくる責任 つかう責任」にもあるように、私たちはクルマを製造すること、使うこと両方に目を向けていかなければなりません。
次回のコラムでは「燃費」に関するトピックをさらに詳しく取り上げる予定です。ぜひこの記事と合わせてお読みください。
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